早稲田大学 リーディング理工学博士プログラム

第2回 2016.11.30

博士号は自分の可能性を広げる一つの資格

H. S. さん

外資系医薬・化学品メーカー
スペシャリスト

略 歴
早稲田大学大学院理工学研究科応用化学専攻(当時)博士課程修了後、ドイツ、国内大学でのポスドクを経て、現在の企業に入社。博士(工学)。

博士号を取得しようと思った理由を教えてください。

 祖父が大学教授で、博士号を取得して研究者になる、ということが比較的身近な存在でしたので、その影響が大きかったように思います。

博士課程ではどのような研究をされていらっしゃいましたか。また、どのように就職先を決められたのでしょうか。

 ナノメートルオーダーの薄膜がもつ機能に興味を持っていましたので、その流れで博士課程では、空気を通すと酸素を選択的に結合する高分子酸素濃縮薄膜の作成と輸送機構のメカニズムについて研究しました。博士号取得後、ドイツにあるブレーメン大学や国内大学でのポスドクを経て、色素増感太陽電池を研究開発していたベンチャー企業に研究員として入り、さらにその流れで2008年から現在の企業に所属しています。
 最初は純粋な興味から、その場そのときでできることに邁進した結果、今のところに流れ着いた感じです。

現在の仕事について教えてください。

 入社当初は色素増感太陽電池に用いる有機薄膜の研究開発に携わっていましたが、現在は太陽電池とは違ったテーマに取り組んでいます。扱うテーマが広がるごとに、覚えるべき知識やスキルが増えていきますから、日々勉強、地道にやっています。再現性が取れないときなどもあり、本当に苦しい毎日が続くこともありますが、国内外のメンバーと協力しながら、何とか成果としてまとめられるようにと頑張っています。特に最近、少し良い成果を得られるようになってきたテーマがあり、気持ちが明るくなってきました(笑)。

博士号を取得して良かったと思うことはありますか。

 入社してすぐに教えていただいたのですが、「博士号は足の裏の米粒」という言い回しがあります。その心は、「取っても食えないが、取らないと気持ち悪い」とのことで、聞いた瞬間、まさにそういうものだな、と腑に落ちました。現在の所属部署ではメンバーのほぼ全員が博士号を持っていますので、良し悪しというよりは、持っていないとメンバーになれなかった、という方が正しいです。自分の可能性を広げる一つの資格であることには間違いないと思います。

企業で働く醍醐味は何でしょうか。

 一般的には、市場に近いテーマに携わることができる、ということでしょうか。部署によっては、その会社にしかない装置などを使って新しい素材の機能を発見したり、技術を開発したりすることもあると思います。多様な分野から集ったスペシャリストが、部署あるいは企業として一つの目標に向かって濃い議論を交わすわけです。なかば喧嘩のような言い合いになることもありますが、分野の異なる視点からの知見を得ることは、私の視野を広げる助けにもなりますし、正直、楽しいです。
 また、ドイツ本社では、頭を動かす人と手を動かす人(テクニシャン)が別であることが通常です。日本の企業でもそういう会社もあると聞きました。私の所属している部署ではなかなかそういうわけにはいかないようで、現在の上司はどちらもこなすプレイングマネジャーです。多様な分野から多様な人材が集う企業だからこそ、こんな風になりたいと思える人と出会えるのかもしれません。

後輩女子学生へのメッセージをお願いします。

 人とのつながりを大事にしてください。現在の企業に落ち着くまで、色々な先輩、先生方にお世話になって道が開けてきました。また、趣味で広がる人間関係も重要です。私自身、文字通り「大学や職場と、家との往復」でしたが、以前お世話になった先生からご紹介いただき、現在は日本化学会オーケストラで月に1~2回フルートを吹いています。メンバーは産学官から、化学や物理、薬学と分野を超えて活躍されている方が所属しています。そこでの人間関係も、大切にしています。
 博士号について言えば、一般的には、研究職でも博士号を取得していない方も多くいらっしゃいますが、博士号を取っておけば良かった、という声を多く聞くのも事実です。私が勤める企業が外資系ですので余計にそう思うのかもしれませんが、ドイツ本社やイギリス、アメリカの社員の方とやり取りをすることも多く、博士号を持っていることが、議論の土俵に上る大前提になります。研究職に挑戦したいな、と少しでも考えているのでしたら、是非、博士課程に進学することをお勧めします。

ありがとうございました。

(取材者の所属等は取材当時のものです)

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