早稲田大学 リーディング理工学博士プログラム

第4回 2017.11.01

博士課程は3年間勉強だけに集中できる、絶好のチャンス

マルミローリ マルタ さん

三菱電機株式会社 電力・産業システム事業本部 グローバル戦略統括部
総合エネルギーシステム技術部 次長
兼 IoT推進グループ グループマネージャー

略 歴
ボローニャ大学工学部を卒業(日本の修士課程修了に相当)後、東京大学での研究生を経て、1997年に三菱電機(株)入社。2008年、早稲田大学大学院環境エネルギー研究科で博士(工学)取得。

日本企業に就職された理由を教えてください。

 大学では、核融合炉の実現に向けた超伝導技術について研究していました。イタリアで就職することも考えましたが、日本という国に興味があったこともあり、在日イタリア商工会議所から半年間の奨学金を得て、日本に来ました。研究生として東京大学にお世話になりながら、紹介していただいた電機メーカーの採用試験をいくつか受け、最終的には仕事の自由度が高そうだった三菱電機に決めました。

第4回輝く女性博士たち

初めは正社員での採用ではなかったのですね。

 まだ「外国人」の採用自体が多くなかった時代ですし、当初は日本語もほとんど話せなかったということも影響していたかもしれません。10年ほどかかりましたが、関わってきた仕事やメンバーにも支えられて、正社員となりました。どんどん責任ある仕事も任されるようになり、現在は15名弱の部の次長となっています。部内には私を含めて3名の外国籍のメンバーがおり、良い仕事をするために、密なコミュニケーションを意識しています。

これまでどのようなお仕事をされてきたのでしょうか。

 一貫して、電力小売管理システムBLEnDerシリーズの開発に従事しています。入社した1997年にはすでに、電力自由化に向けて、電力会社や新電力会社=特定規模電気事業者(Power Producer and Supplier; PPS)を対象としたいくつかのシステム開発が進められていましたので、これに加わりました。2000年の一部電力自由化開始とほぼ同時期に最初の管理システムを発売、その後、日本卸電力取引所(JEPX)向け取引支援システムの開発に注力しました。また、2010年からは社内プロジェクトとして、太陽光を含む発電、送配電、通信、それらの制御システムなど全てをそろえた巨大実験場を弊社の尼崎工場に整備し、スマートグリッド・スマートコミュニティ実証を行いました。この実証中に東日本大震災が起こり、社会がスマートグリッドの可能性に一層注目するようになりましたので、その基盤となるスマートメーターの開発にも関わるようになりました。一例ですが、電力使用量のデータを収集する機器としてだけではなく、様々なデータを送受信するIoT用通信機としての機能をスマートメーターに付加し、サービスとして展開するための技術課題をひとつずつ解決してきています。ですから現在は、電力小売管理システムとスマートグリッド関連のシステム開発の2軸で業務を進めています。

 2015年から現在の所属となる電力事業本部の戦略部門に配属となり、多様性を増す社会動向を見極め、弊社の事業方針や得意技と照らして、ビジネス展開しうる技術やサービス、その実現のための課題などを検討する業務にも携わるようになりました。

企業で働く面白さは何でしょうか。

 直接的に社会の役に立つものを生み出せることですね。何か困っていることがないかと課題を見つけて、その解決のための方針を探り、実際に解決できる製品を作ることができるのは製品開発に携わる仕事ならでは、ではないでしょうか。

第4回輝く女性博士たちそのような中で、博士号を取得されたきっかけは何でしたか。

 最初に配属された部署には博士号取得者が多くいましたので、電力自由化に向けた最初の山場がひと段落した2001年頃に取得を考えるようになりました。2002年に、東京都立大学(現、首都大学東京)に入学したのですが、業務との両立が想像以上に難しく、結局、博士号取得までに5年もかかってしまいました。その間に指導教員であった横山隆一先生が早稲田大学に異動されたため、博士号は早稲田大学からいただきました。核となったテーマは「電力市場自由化に際する送電線混雑管理のための最適化アルゴリズム」で、当時の業務内容を下地にしています。このため、論文や学会発表するタイミングには配慮を要し、苦労しました。

博士号を取得されて、変化はありましたか。

 取得後に大きく変化があった、ということはありません。取得するまでの過程に価値があったと思います。また、もう7年目に入りますが、早稲田大学で「Power System and Nuclear Power Generation Theory」という科目を担当させていただいており、大学で学生を相手に講義する機会を得られたというのは、ひとつの変化といえるかもしれませんね。

ワークライフバランスをとる工夫などがありましたら教えてください。

 イタリア人の特徴を忘れず、毎週、家族や友達とのイベントを計画するようにしています。また、今でも毎年2度はイタリアへ帰って、パワーチャージしています。

後輩の女子学生にメッセージをお願いします。

 博士課程在籍時、学生さんたちと一緒に勉強やプレゼンテーションの練習に取り組めたことはとても刺激になりました。私は仕事をしながら、という方法を選びましたが、みなさんがもし自身の見識を深めるために博士号を取得したいと思い、状況が許されるのであれば、学生として勉強に集中することをお勧めします。3年という期間、研究・勉強だけに取り組めるというチャンスは、多くありませんから。

ありがとうございました。

(取材者の所属等は取材当時のものです)

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